インドで大炎上【新保信長】『食堂生まれ、外食育ち』33品目
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」33品目
デリー滞在中に食べたカレーは、どれもうまかった。日本でも最近は本場のインドカレーを出す店が増えている(ただし店員はネパール人やパキスタン人だったりする)が、当時はまだそれほど身近ではなかったように思う。そういう意味では食べ慣れない味だったかもしれないが、その分、「おお、これがインドのカレーか!」という新鮮味もあった。
しかし、一番うまかったのは、お祭り取材のため南インドのチェンナイ(旧マドラス)に飛んで、投宿したホテルの朝食だ。朝食といえども、インドであるからには当然のようにカレーが出る。ただし、付いてくるのがナンやチャパティやライスではなく、ふわふわの蒸しパンだった。それが「イドゥリ」という名前であることはあとで知ったが、日本のもっちりした蒸しパンとは全然違う。もっと軽くてスポンジみたいで、ほんのり酸味がありシュワーッとしてるのだ。
これを南インド独特のサンバル(豆と野菜のシャバシャバカレー)やココナッツ風味のフィッシュカレーやヨーグルトみたいなやつにつけて食べるとマジでバカうま。最初の一口を食べたときには、マンガ『孤独のグルメ』で井之頭五郎が豆かんをほおばったときの顔みたいになっていたと思う。カレーのスパイスも相まって、起き抜けで半分眠っていた胃や脳がパーッと目を覚ます。そのホテルはチェンナイでは高級なほうながら、シャワーは濁った生ぬるい水がチョロチョロ出るだけだったが、あの朝食は最高だった。
ヒジュラ大集合のお祭りが開かれるのは、チェンナイ市街からクルマで数時間走った村だ。インド人ドライバーの運転は大変荒っぽい。交差点なんかは我先に突っ込んでいくし、基本的に避けたら負けのチキンレースである。郊外の一本道で追い越しのために対向車線を突っ走っているところに正面からトラックが迫ってきて肝を冷やしたこともあったし、道端に大型トラックが横転しているところも何度か見た。あの調子で運転してたら、そら事故も起こるわなあ……と正直思った。
途中、ヒジュラのビューティーコンテストみたいなのも見ながら、目的地の村へ。「アラヴァン・タライ」と呼ばれるお祭りは夜通し行われる。途中で雨が降ったりもして、取材はなかなかハードであった。といっても、一番ハードだったのはヒジュラになりきってお祭りの真っ只中に突入していった西原さんとそれを追いかけて撮影した石川さんで、私は遠巻きに見ていただけなのだが、見ているだけというのもなかなか疲れる。
いろいろありつつも翌朝には何とか無事に取材が終わってホッと一息。その後デリーに戻って、明日は帰国という日の夜は、ホテルのレストランで打ち上げの宴である。インド人はあまりお酒を飲まないというか、州によっては禁酒のところもあるようだが、外国人がレストランで飲む分には問題ない。ビールやワインを飲みながら、タンドリーチキンやシークカバブ(つくね肉の串焼き)などをパクつく。あとは帰るだけなので気楽なものだ。